日本英文学会関東支部メールマガジン 臨時号 2025年11月25日
2025/11/25 (Tue) 15:15
日本英文学会関東支部メールマガジン
臨時号 2025年11月25日
秦邦生先生(東京大学)よりお知らせです。
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Tokyo Modernism Research Seminar 10
ミニ・シンポジウム
「グローバル・モダニズム、翻訳/翻案、日本」
December 5th (Friday) 2025, 17:00-18:30 [UTC+9]
2025年12月5日(金)17:00-18:30
場所 東京大学駒場キャンパス 18号館1階メディアラボ2
(対面・オンライン参加オプションあり)
方法としての断片、あるいは河童のエクリチュールについて――西脇順三郎、芥川龍之介、ヴァルター・ベンヤミン 佐藤元状(慶應義塾大学)
西脇順三郎(1894-1982)と芥川龍之介(1892-1927)とヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)が同時代人であることはあまり知られていない。しかし、詩、小説、批評と専門分野も異なっているにもかかわらず、これらの三人の書き手には、ロマン主義的な「断片」的な形式へのこだわりという点で、時代的な照応が感じられる。そして西脇と芥川は共にそうした断片性への意志が、「河童の言語」というフィギュールの形で表面化していくところに共通点がある。本発表では、西脇の詩集『旅人かへらず』(1947)と芥川の小説『河童』(1927)(および『或る阿呆の一生』(1927))を合わせ読み、自然と文化の合間に存在する河童という言語的他者――『河童』の語り手は、外国語として河童語をマスターする――との遭遇について考察を深めるとともに、これらの作品に共通する「フラヌール」のフィギュールについてベンヤミンの『一方通行路』(1928)との比較から歴史化していくことによって、東西のモダニストたちの「方法としての断片」が担っていた文学的抵抗について明らかにしていく。
内山敏にとっての「ロシア」と戦後における「抵抗」 ライアン・ジョンソン(メルボルン大学)
近代日本文学史において、内山敏は戦時から戦後にかけて英文学および仏文学の邦訳で知られる、比較的マイナーな人物である。近年では、内山と戦後における「抵抗」論との関係が注目されつつある。1951年、内山はフランス文学志向の座談会「文学における抵抗」に参加し、同年にはジャン・ゲーノーの『深夜の日記』を邦訳した。しかし内山は、生涯にわたってロシア文化と文学のいわゆる「アジア的な性格」に強い関心を抱き続けた。この関心が最初に明確に見られるのは、1942年に訳出したジョン・グールド・フレッチャー『アメリカとロシアの心理分析』の翻訳者「はしがき」においてである。そこで内山はフレッチャーの議論を引用しつつ、ロシアおよびソ連における「半分東洋」的要素を強調した。さらに、1948年の『双頭の鷲は地に墜つ―ロシア革命史話』や、1957年の国際ペンクラブ大会に関するエッセイでも、この「半分東洋」的なロシアの重要性を繰り返し示している。本発表は、内山による「抵抗」をめぐる言説と「ロシア」理解の両面を照らし合わせながら、「半分東洋的なロシア」という概念を軸としつつ、フランス思想・ロシア論・近代日本文学の三者が形成する三角関係の構図を明らかにする。
ハイブリッドとしてのHAIBUN 吉田恭子(京都大学)
近年英語圏で数多くのhaibunが発表されている。日本の俳文とは違って、その確固たる形式的・美学的源泉には『おくのほそ道』があり、紀行文、漂泊の記録としてのhaibunには一種の詩的アルバムとしての側面がある。たとえばForrest Ganderによる Core Samples from the World (2014) にその洗練された例を見出すことができるだろう。また、英語のhaikuは三行詩であるため、散文パラグラフとhaikuの韻文を交互に配置することで活字配置の空白が生じ、行間の詩的な余韻の効果が視覚的にもはっきりと現れる。それが現代詩人の実験を誘い、Torrin A. Greathouseによる “Burning Haibun” (2016- )といった形式をも生み出した。もちろん、haibunには、Ezra Pound経由のイマジズム的俳句受容の伝統や、Gary Snyderらビート世代の禅的影響も受け継がれている。形式的にも影響の系譜的にもハイブリッドなhaibunは、さまざまな時代の日本文学・思想の諸要素が、複数の経路・翻訳を通じて集合し再配置されることで、新たな可能性を生み出しているかのようだ。本発表では英語haibunのハイブリッド性が開く実験性を具体的に見ていきたい。
このイベントはハイブリッド形式で実施します。オンライン参加をご希望の場合は以下のGoogle Formから登録してください。
https://forms.gle/4tc2f2higMtXBPhP8
問い合わせ先: kshin[アットマーク]g.ecc.u-tokyo.ac.jp(東京大学・秦邦生)
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臨時号 2025年11月25日
秦邦生先生(東京大学)よりお知らせです。
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Tokyo Modernism Research Seminar 10
ミニ・シンポジウム
「グローバル・モダニズム、翻訳/翻案、日本」
December 5th (Friday) 2025, 17:00-18:30 [UTC+9]
2025年12月5日(金)17:00-18:30
場所 東京大学駒場キャンパス 18号館1階メディアラボ2
(対面・オンライン参加オプションあり)
方法としての断片、あるいは河童のエクリチュールについて――西脇順三郎、芥川龍之介、ヴァルター・ベンヤミン 佐藤元状(慶應義塾大学)
西脇順三郎(1894-1982)と芥川龍之介(1892-1927)とヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)が同時代人であることはあまり知られていない。しかし、詩、小説、批評と専門分野も異なっているにもかかわらず、これらの三人の書き手には、ロマン主義的な「断片」的な形式へのこだわりという点で、時代的な照応が感じられる。そして西脇と芥川は共にそうした断片性への意志が、「河童の言語」というフィギュールの形で表面化していくところに共通点がある。本発表では、西脇の詩集『旅人かへらず』(1947)と芥川の小説『河童』(1927)(および『或る阿呆の一生』(1927))を合わせ読み、自然と文化の合間に存在する河童という言語的他者――『河童』の語り手は、外国語として河童語をマスターする――との遭遇について考察を深めるとともに、これらの作品に共通する「フラヌール」のフィギュールについてベンヤミンの『一方通行路』(1928)との比較から歴史化していくことによって、東西のモダニストたちの「方法としての断片」が担っていた文学的抵抗について明らかにしていく。
内山敏にとっての「ロシア」と戦後における「抵抗」 ライアン・ジョンソン(メルボルン大学)
近代日本文学史において、内山敏は戦時から戦後にかけて英文学および仏文学の邦訳で知られる、比較的マイナーな人物である。近年では、内山と戦後における「抵抗」論との関係が注目されつつある。1951年、内山はフランス文学志向の座談会「文学における抵抗」に参加し、同年にはジャン・ゲーノーの『深夜の日記』を邦訳した。しかし内山は、生涯にわたってロシア文化と文学のいわゆる「アジア的な性格」に強い関心を抱き続けた。この関心が最初に明確に見られるのは、1942年に訳出したジョン・グールド・フレッチャー『アメリカとロシアの心理分析』の翻訳者「はしがき」においてである。そこで内山はフレッチャーの議論を引用しつつ、ロシアおよびソ連における「半分東洋」的要素を強調した。さらに、1948年の『双頭の鷲は地に墜つ―ロシア革命史話』や、1957年の国際ペンクラブ大会に関するエッセイでも、この「半分東洋」的なロシアの重要性を繰り返し示している。本発表は、内山による「抵抗」をめぐる言説と「ロシア」理解の両面を照らし合わせながら、「半分東洋的なロシア」という概念を軸としつつ、フランス思想・ロシア論・近代日本文学の三者が形成する三角関係の構図を明らかにする。
ハイブリッドとしてのHAIBUN 吉田恭子(京都大学)
近年英語圏で数多くのhaibunが発表されている。日本の俳文とは違って、その確固たる形式的・美学的源泉には『おくのほそ道』があり、紀行文、漂泊の記録としてのhaibunには一種の詩的アルバムとしての側面がある。たとえばForrest Ganderによる Core Samples from the World (2014) にその洗練された例を見出すことができるだろう。また、英語のhaikuは三行詩であるため、散文パラグラフとhaikuの韻文を交互に配置することで活字配置の空白が生じ、行間の詩的な余韻の効果が視覚的にもはっきりと現れる。それが現代詩人の実験を誘い、Torrin A. Greathouseによる “Burning Haibun” (2016- )といった形式をも生み出した。もちろん、haibunには、Ezra Pound経由のイマジズム的俳句受容の伝統や、Gary Snyderらビート世代の禅的影響も受け継がれている。形式的にも影響の系譜的にもハイブリッドなhaibunは、さまざまな時代の日本文学・思想の諸要素が、複数の経路・翻訳を通じて集合し再配置されることで、新たな可能性を生み出しているかのようだ。本発表では英語haibunのハイブリッド性が開く実験性を具体的に見ていきたい。
このイベントはハイブリッド形式で実施します。オンライン参加をご希望の場合は以下のGoogle Formから登録してください。
https://forms.gle/4tc2f2higMtXBPhP8
問い合わせ先: kshin[アットマーク]g.ecc.u-tokyo.ac.jp(東京大学・秦邦生)
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